百年の恋 96
「退……」
突然ベッドに腰を掛けたまま考え込んでしまった山崎に声が掛かる。
ようやくその声に現状を思い出し、山崎は視線を己の主に向けた。そしてウッと息を詰める。
なんだ!?この潤んだ瞳は!しかもうっすらと色付く上気した頬と相まって、恐ろしいまでの艶を振り撒いていた。
これは反則だ!と心中で絶叫しかけて、咄嗟に口許を覆う。
「やきもち、焼いたか?」
「はっ?」
土方の口許に笑みが刷かれる。それは今までに見たことがないほどに婀娜めいていて、山崎の鼓動はまたもや跳ね上がるのだ。
「高杉にやきもち焼いたか?」
ベッドの上に腰を掛けている山崎の方ににじり寄り、再びそう問いかけてくる。その瞳は余りにも真剣で、彼が冗談を言っているのではないということが窺い知れ、山崎は咄嗟に返事が出来なかった。
そんな山崎に土方は更に畳み掛ける。
「俺はもう、子供じゃない」
「と……」
「それともやっぱりお母さんじゃないとダメなのか?」
最近よく主張するようになったその言葉をここでも口にする土方の真意がどこにあるのか。山崎は続いた言葉にようやく理解した。
自分が育てた恵津に託された子供ではなく、一人の人間として自分を見てくれ、という訴えだったのだろう。
「十四郎さまは私のことがお好きですか?」
「好きじゃなかったら、こんなことはしなかった」
その問いは思いがけずすんなりと出てきた。そして土方も逡巡なく返答する。
嗚呼。高杉はこの土方の想いに気付いていたのか。だから自分にあれほど突っ掛かってきていたのだろう。もしかすると発破を掛けているつもりだったのかもしれない。
山崎に早く自分の想いに気付け、と……。確かに傍から見ていると、さぞかし滑稽だったに違いない。
「私の言っている意味、分かってますか?」
肉親としてではなく、一人の人間として好きなのだ。
それをもう一度確認すると、土方は少しむくれたような顔になった。
「お前こそ、ちゃんと分かってんのか?俺は好きなんかじゃなくって、愛してんだよ」
下から挑むように見詰めてくる視線を真っ直ぐに受けて、山崎は些か驚愕した。こんなにはっきりと自己主張する土方など、今まで見たことがない。
もしかしてそれほどに焦れていたのだろうか?なかなか自分の想いを自覚しようとしない山崎に……。
先ほど思い悩んでいたことは、全くの無駄だったらしい。土方は最初から山崎のことを一人の人間として、きちんと見てくれていたのだ。
ならば何を迷うことがあるだろう。
「愛してますよ。十四郎さまだけです」
そう答えた途端、土方は吃驚したように大きく瞠目してから、固い蕾が綻ぶように微笑んだ。その嬉しそうで鮮やかな微笑みに山崎は息を飲み、見惚れてしまう。
「退……」
土方が体を伸ばして顔を寄せてくる。もう吐息が頬に掛かるほどに、土方の整った顔が目の前に迫ってきた。
互いの唇が触れる。その瞬間だ。
「気持ち悪い……」
「えぇぇぇ!?」
突然土方は口許を覆って、蹲ってしまった。
この時になってようやく山崎は気が付いたのだ。土方の吐息が酒気帯びていたことを……。
もしや、と思い振り返ると、テーブルの上に数本の空き缶が転がっている。
飲んだのか?酒を……?
ということは、今までの別人のようであった土方は単に酔っていたということか!?
山崎は愕然とした。だがいつまでも呆けていう場合ではない。
「ここで吐かないでください!!」
悲愴な声を上げて土方を抱えるようにトイレに連れていく。どうにか間に合った山崎はほぉっと胸を撫で下ろした。
そのまま寝入ってしまった土方をベッドまで運んで寝かせてやる。全く、こういうところが子供だというのだが、口にするとまた拗ねられそうなので黙っておこう。
そう思いながらも山崎の口許には、はんなりと笑みが浮かんだ。
「愛してますよ」
きっと今回のようなことがあれば、百年の恋も冷めるというのだろう。
だが自分に限ってそれはない。山崎は土方のすべてを受け入れる。彼の存在そのものを愛しているのだ。
「百年も二百年も愛してます。覚悟して下さいね」
やっと自覚した恋心。これは山崎がこの世に存在する限り、ずっと共にあり続ける不変の想い。
山崎はベッドの上で寝息を立てている土方の顔を覗き込み、その頬に口付る為にゆっくりと身を屈めた。
..
突然ベッドに腰を掛けたまま考え込んでしまった山崎に声が掛かる。
ようやくその声に現状を思い出し、山崎は視線を己の主に向けた。そしてウッと息を詰める。
なんだ!?この潤んだ瞳は!しかもうっすらと色付く上気した頬と相まって、恐ろしいまでの艶を振り撒いていた。
これは反則だ!と心中で絶叫しかけて、咄嗟に口許を覆う。
「やきもち、焼いたか?」
「はっ?」
土方の口許に笑みが刷かれる。それは今までに見たことがないほどに婀娜めいていて、山崎の鼓動はまたもや跳ね上がるのだ。
「高杉にやきもち焼いたか?」
ベッドの上に腰を掛けている山崎の方ににじり寄り、再びそう問いかけてくる。その瞳は余りにも真剣で、彼が冗談を言っているのではないということが窺い知れ、山崎は咄嗟に返事が出来なかった。
そんな山崎に土方は更に畳み掛ける。
「俺はもう、子供じゃない」
「と……」
「それともやっぱりお母さんじゃないとダメなのか?」
最近よく主張するようになったその言葉をここでも口にする土方の真意がどこにあるのか。山崎は続いた言葉にようやく理解した。
自分が育てた恵津に託された子供ではなく、一人の人間として自分を見てくれ、という訴えだったのだろう。
「十四郎さまは私のことがお好きですか?」
「好きじゃなかったら、こんなことはしなかった」
その問いは思いがけずすんなりと出てきた。そして土方も逡巡なく返答する。
嗚呼。高杉はこの土方の想いに気付いていたのか。だから自分にあれほど突っ掛かってきていたのだろう。もしかすると発破を掛けているつもりだったのかもしれない。
山崎に早く自分の想いに気付け、と……。確かに傍から見ていると、さぞかし滑稽だったに違いない。
「私の言っている意味、分かってますか?」
肉親としてではなく、一人の人間として好きなのだ。
それをもう一度確認すると、土方は少しむくれたような顔になった。
「お前こそ、ちゃんと分かってんのか?俺は好きなんかじゃなくって、愛してんだよ」
下から挑むように見詰めてくる視線を真っ直ぐに受けて、山崎は些か驚愕した。こんなにはっきりと自己主張する土方など、今まで見たことがない。
もしかしてそれほどに焦れていたのだろうか?なかなか自分の想いを自覚しようとしない山崎に……。
先ほど思い悩んでいたことは、全くの無駄だったらしい。土方は最初から山崎のことを一人の人間として、きちんと見てくれていたのだ。
ならば何を迷うことがあるだろう。
「愛してますよ。十四郎さまだけです」
そう答えた途端、土方は吃驚したように大きく瞠目してから、固い蕾が綻ぶように微笑んだ。その嬉しそうで鮮やかな微笑みに山崎は息を飲み、見惚れてしまう。
「退……」
土方が体を伸ばして顔を寄せてくる。もう吐息が頬に掛かるほどに、土方の整った顔が目の前に迫ってきた。
互いの唇が触れる。その瞬間だ。
「気持ち悪い……」
「えぇぇぇ!?」
突然土方は口許を覆って、蹲ってしまった。
この時になってようやく山崎は気が付いたのだ。土方の吐息が酒気帯びていたことを……。
もしや、と思い振り返ると、テーブルの上に数本の空き缶が転がっている。
飲んだのか?酒を……?
ということは、今までの別人のようであった土方は単に酔っていたということか!?
山崎は愕然とした。だがいつまでも呆けていう場合ではない。
「ここで吐かないでください!!」
悲愴な声を上げて土方を抱えるようにトイレに連れていく。どうにか間に合った山崎はほぉっと胸を撫で下ろした。
そのまま寝入ってしまった土方をベッドまで運んで寝かせてやる。全く、こういうところが子供だというのだが、口にするとまた拗ねられそうなので黙っておこう。
そう思いながらも山崎の口許には、はんなりと笑みが浮かんだ。
「愛してますよ」
きっと今回のようなことがあれば、百年の恋も冷めるというのだろう。
だが自分に限ってそれはない。山崎は土方のすべてを受け入れる。彼の存在そのものを愛しているのだ。
「百年も二百年も愛してます。覚悟して下さいね」
やっと自覚した恋心。これは山崎がこの世に存在する限り、ずっと共にあり続ける不変の想い。
山崎はベッドの上で寝息を立てている土方の顔を覗き込み、その頬に口付る為にゆっくりと身を屈めた。
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| 百年の恋 | 2009-11-22 | comments:0 | TOP↑





